大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和23年(ヨ)2897号 決定 1948年11月30日

申請人

相場廣正

申請人

近藤三雄

被申請人

株式会社朝日新聞社

申請人等は、被申請人を相手として従業員の地位の保全を求める仮処分の申請をしたから、当裁判所は、審理のうえ、次の通り決定する。

主文

被申請人が昭和二十三年十月中申請人両名に対してなした解雇の意思表示については、その効力を停止する。

理由

申請人等の申請は一応もつともである。

その理由の重要な点を左にかかげる。

(一)、申請人両名に対する解雇の意思表示はその形式的理由の如何にかかわらず、被申請人東京本社における昭和二十三年十月十四日のストライキの際に申請人両名の行つた争議行為を理由とするものである。争議行為をなしたことを理由としてその労働者を解雇するには、労働委員会の同意をえなければならないこと、労働関係調整法第四十条で明らかである。度はずれて違法な争議行為を理由として解雇する場合においてもなお労働委員会の同意をえなければならないかについては議論があるであろうが、本件においては、ピケンチング、居すわり、巻取紙切断等が争議行為として行き過ぎであるかどうか、そして根本的には申請人両名が被申請人のいうようなことをやつたかどうかが問題になつているのであつて、仮りに申請人両名が被申請人のいうようなことをやつたとしても、それは度はずれて違法な争議行為というにはやや足りないのであるから、前記議論の結論は如何にもあれ、右争議行為を理由として解雇するには、やはり、労働委員会の同意をえなければならないのである。しかるに本件においてはそれをえていないのであるから、前記解雇は無効であつて、申請人両名は依然被申請人の従業員たる地位を保有しているものといはなければならない。

(二)、一度争議行為を理由として解雇された労働者が、他に職をえること、最低限度の生活を支えるに足るほどの収入をえることがはなはだ困難であることは、産業労働界の現状からいつて、何人も疑わぬところであろう。申請人両名についても、相当期間徒食するに足るほどの財産をもつているなどの特別の事情はないからインフレーシヨン昂進下の今日、申請人両名は食うに困る実状にあるものと認めなければならない。解雇通知による精神的な損害、組合活動に支障を生ずることによる損害もさることながら、本案判決確定まで被解雇者として扱はれることによる財産上の損害はまさに著しい損害といわなければならない。

以上のうち事実関係については、申請人等の出した疏明方法によつて、疏明があつたといえる。

仮処分の要件がことごとくそなわつている本件においては、仮りの地位を定める仮処分として前記解雇の効力を停止する処分をするのが正当である。

万一被申請人不服があれば、異議申立後の手続において、さらに審理をし、理由をつくして、仮処分の採否を決するであろう。

申請

東京地方昭和二三年(ヨ)第二八九七号仮処分申請事件(昭和二三、一一、二六申請)

一、当事者

申請人 相場廣正

申請人 近藤三雄

被申請人 株式会社朝日新聞社

二、申請の趣旨

被申請人は相場廣正、近藤三雄が従来の職場で、従来の地位で業務を行うことを妨げてはならない。そして同人に対する賃金その他の労働条件は、他の従業員と差別しなければならない。

三、申請の理由

(一)、申請人相場廣正は、朝日新聞東京本社活版部に昭和七年以来、申請人近藤三雄は、同東京本社印刷部に昭和十四年以来、各勤務してきた被申請人の従業員である。そして両名とも全日本新聞労働組合(略称全新聞)朝日支部の従業員である。

(二)、ところが全新聞朝日支部では、昭和二十二年来の懸案であつた新給与体系について、去る七月二十日以来被申請人との間に交渉中であつたが、十月八日体系そのものについては意見が一致し、スライド率の交渉に入つた。しかしついに妥結にいたらず十月十四日午前一時朝日支部は闘争宣言を発し、闘争態勢をとるに至り、ついで同日午前二時四十分スト態勢(いつでもストに入れる用意の態勢)に入り、なお被申請人は、誠意を見せないので、ついに同日午後五時東京、大阪、西部の各分会印刷局ならびに中部分会活版部印刷部はストライキに入り、午後七時まで継続した。しかし被申請人は組合の切りくずしに狂奔するばかりで、争議の解決についてはなんらの誠意も努力も示さなかつた。そこで朝日支部はさらに同月十六日午後六時から十時半まで西部分会印刷局のストライキを行つたが、なお被申請人の態度はかわらない。しかし朝日支部は被申請人の組合切りくずし工作に対抗して組織をまもるために二十日闘争態勢をひとまず解くことにした。

(三)、前記十月十四日午後五時から七時までのストライキにおいて、東京分会印刷局に対し、二回にわたり印刷業務とは何の関係のない発送部員数十名を暴力的におそわせたが乱闘をさけるために争議団員が扉をしめるや、外から扉を破壊してなだれこませ、少しばかりのこぜり合を演じたことがあつた。

これについて被申請人は自己の非行を考えないで、争議団側になにか責任があるかのように吹聴したばかりでなく、同月二十一日その場の責任者として、朝日支部所属の相場廣正を、被申請人が一方的に作つた就業規則第十、第十一、第六十五条などに違反するものとして、解雇処分に付した。被申請人は同様の理由で同時に西部分会の三名と二十三日大阪分会の三名を解雇した。また近藤三雄は前記東京分会のスト時間中印刷部輪転課で労働者がストに入つたので、部課長ら二、三名が機械を運転しようとしたので、「やめて貰いたい」と云うと部課長らは機械をはなれて、近藤をつき出したことがあつたが、被申請人はこの事実をとらえて同月二十七日相場と同様の理由で解雇処分に付した。

しかしながら右の解雇は、団体協約第三条、乙号第三条に違反した朝日支部の承認をえない解雇として無効であるばかりでなく、争議行動を理由にする解雇は、労働調整法第四十条に違反する不当な、無効な解雇処分である。また相場は、朝日支部東京分会委員、活版部委員長であり、近藤は東京分会の闘争委員長、組織部長であるので組合役員を閉めだすための解雇として、労働組合法第十一条違反でもある。そこで相場等解雇されたものと全新聞らは、東京地方労働委員会に対し、労働組合法第十一条、労働関係調整法第四十条違反などの提訴をしたから、近く労働委員会から公訴請求が行われることは確実である。

労働組合法第十一条、労調法第四十条違反の解雇は私法上も無効であることはいうまでもないが、右相場、近藤は本訴判決などにより原職復帰を許されるまでの期間中、賃金労働者として、たえがたい苦痛と、また償いがたい損害をうけるのでその間の地位を保全するために、申請の趣旨の裁判を求める。

(四)、申請人等は、被申請人等にたいして解雇無効確認の本訴を提起するため準備中である。

東京地方裁判所 御中

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例